この記事の要点
- 「競合がいない」という調査結果の多くは、市場が空いていることではなく、調べた範囲が狭いことを示しています。
- 見落としの死角は3つあります。媒体を一つしか見ていない、言葉で検索して意味で検索していない、「出稿がない」を「需要がない」と読み替えている、の3つです。
- 先客がいる市場は不利ではありません。すでに市場が教育されている分、違いを一文で言い切れる後発のほうが売りやすくなります。
「調べましたが、競合はいませんでした」
企画の相談を受けていると、この報告を聞く場面がよくあります。そして正直に申し上げると、私はこの一言を聞いたとき、いちばん慎重になります。
本当に誰もいない市場というのは、実はそれほど多くありません。ほとんどの場合、競合がいないのではなく、見ていた棚が一つだけだった、というのが実態です。この記事では、市場調査で見落としがちな3つの死角と、調べ直すための手順を整理します。
「誰もやっていない」と分かった瞬間が、いちばん危ない
先日、私自身がこれをやりました。
ある企画の切り口について、「この訴求は、まだ誰も広告を出していない」と結論を出しかけたのです。広告のライブラリを何度も検索し、期間を変え、言い回しを変え、それでも該当する出稿がほとんど出てこなかった。調べれば調べるほど「空いている」という確信が強くなっていきました。
ところが、本の市場を調べ直したところ、同じ言葉を旗として掲げている著者がすでにいました。版を重ねた書籍があり、その言葉を冠したラジオ番組があり、読者を集める会まで動いていました。広告という一つの棚では見えなかっただけで、市場にはとっくに先客がいたのです。
このとき私が反省したのは、調査が足りなかったことではありません。「空いている」という結論が出たあとに、疑う工程を持っていなかったことです。
人は、望んでいた答えが出ると検証をやめます。「競合がいない」は、企画を進めたい人にとって最高に気持ちのいい結論です。だからこそ、その瞬間にいちばんブレーキが効かなくなります。
市場調査で見落としがちな3つの死角
私の失敗も含めて整理すると、見落としはだいたい次の3つのどれかに当てはまります。

死角① 一つの媒体だけを見て「市場」と呼んでいる
広告のライブラリを調べた。検索結果を見た。それで「市場を調べた」と言ってしまう。これがいちばん多い見落としです。
けれど、商品を売っている人が全員、広告を出しているわけではありません。書籍で認知を取っている人、動画の登録者数で集めている人、紹介と口コミだけで満席にしている人。それぞれ棚が違います。あなたが見た棚に誰もいなかったのは、その棚を使っていないというだけかもしれません。
とくに単価の高い商品ほど、広告に頼らずに売れているケースが増えます。「高単価の市場なのに広告が一件も出てこない」と感じたときは、空いているのではなく、別の棚で戦われている可能性を先に疑ってください。
死角② 言葉で検索して、意味で検索していない
私たちはつい、思いついたキーワードをそのまま検索窓に入れます。けれどお客様は、こちらが使っている言葉を知りません。
たとえば同じ悩みでも、ある人は「時間がない」と言い、ある人は「手が回らない」と言い、ある人は「自分がいないと止まる」と言います。この3つはすべて同じ状態を指しているのに、検索して出てくる競合はまったく別の顔ぶれになります。
キーワードで調べているうちは、自分の語彙の外側にいる競合は永遠に見つかりません。調べるべきは言葉ではなく、お客様が抱えている状態のほうです。同じ状態を、別の言い方で解決している人がいないか。この観点で3通りから4通りは言い換えて調べ直してみてください。
死角③ 「出稿がない」を「需要がない」と読み替えている
これは②と逆方向の見落としです。誰も広告を出していないという事実を、そのまま「誰も欲しがっていない」と結論づけてしまうパターンです。
出稿がない理由は、少なくとも3通りあります。まだ誰も気づいていない、すでに試して割に合わなかった、あるいはその棚を使う必要がないほど別の経路で売れている。この3つは、次に取るべき行動がまったく違います。
一つ目なら先行者になれます。二つ目なら、同じ落とし穴が待っています。三つ目なら、あなたも広告以外の経路を設計したほうが早い。「空いている」で止めずに、「なぜ空いているのか」まで一度言葉にしてみる。ここまでやって、はじめて調査は判断材料になります。
調べ直すための、3つの手順
では実際にどう調べ直すか。私が今回の反省を経て、自分の手順に組み込んだものをそのままお伝えします。
手順① 4つの棚を横断して見る
広告、書籍、動画、検索。この4つを最低限の棚として、必ず全部を見ます。

見えるものがそれぞれ違うので、4つ揃えてはじめて市場の形が分かります。
4つ見て、それでも誰もいない。そのときはじめて「空いているかもしれない」と言ってよい、というくらいの慎重さで十分だと思っています。
手順② キーワードではなく、お客様の状態から入る
調べる前に、まずお客様が置かれている状態を一文で書き出します。「自分が抜けると現場が止まる状態」というように、商品名も業界用語も使わずに書くのがコツです。
そのうえで、その状態を言い表す言葉を3通り以上つくってから検索に入ります。順番を逆にすると、自分の言葉の内側しか見えません。
手順③ 「なぜ空いているのか」を書いてから進む
最後に、空いているという結論が出たら、その理由の仮説を必ず一文で書き残します。
「気づかれていないから空いている」のか、「割に合わないから空いている」のか。書いてみると、根拠が薄いことに自分で気づけます。この一文が書けないうちは、まだ調べ終わっていないと判断してよいと思います。
先客がいたほうが、むしろ売りやすい
ここまで読んで、「じゃあ先客がいたら諦めるのか」と思われたかもしれません。逆です。
私が今回の見落としから得たいちばんの収穫は、先客の存在が悪い知らせではなかったことでした。むしろ、良い知らせでした。
理由は二つあります。一つは、その言葉がすでに市場に紹介されていることです。誰も聞いたことのない概念を一から説明するのは、想像以上にお金と時間がかかります。先に旗を立てた人がいるということは、その説明の費用をどなたかが先に払ってくれている状態です。
もう一つは、比較の相手ができることです。人は、何もないところでは価値を判断できません。「あの人のあれとは、ここが違います」と言える相手がいると、あなたの商品の輪郭は一気にはっきりします。
実際、私が関わった企画でも、先客を見つけたことで打ち手が変わりました。それまでは「新しい概念を説明する」ための言葉を探していたのが、「その概念の、どこが自分たちと違うのか」を一文で言い切る方向に切り替わったのです。結果として、伝えるべきことはむしろ短く、鋭くなりました。
本当に怖いのは、先客がいることではありません。先客がいるのに、いないと思ったまま船を出すことです。同じ言葉で、あとから、何の違いも示さずに登場することになるからです。
まとめ
市場調査の目的は、「空いている場所を見つけること」ではありません。自分がどこに立っているのかを正確に知ることです。
誰もいない場所を探しているうちは、見つかった瞬間に検証が止まります。そうではなく、「誰がいて、その人と自分は何が違うのか」を探しにいく。そう目的を置き換えるだけで、調査は企画を守る道具に変わります。
そして、その違いを一文で言い切れたとき、コピーはもう半分書けています。
「空いている」と思ったときの確認(保存版)
- 広告・書籍・動画・検索の4つの棚を、全部見た
- お客様の状態を一文で書き、3通り以上に言い換えて調べた
- 「なぜ空いているのか」の仮説を一文で書けた
- 主要な競合を3つ挙げ、それぞれとの違いを一文ずつ書けた
こうした調べ方の手順や、実際の案件でどこを見落として、どう直したのか。記事に書ききれない具体的なところは、メールマガジンのほうでお届けしています。日々の仕事の中で見つけた判断の材料を、そのままの温度でお送りしています。
よくある質問
競合がいない市場は狙い目ですか?
多くの場合、狙い目ではなく調査不足のサインです。本当に誰もいない市場は稀で、たいていは調べた媒体が一つに偏っています。広告・書籍・動画・検索の4つを横断して調べ、それでも見つからない場合にはじめて「空いている可能性がある」と判断してください。そのうえで「なぜ空いているのか」の仮説を一文で書けるかを確認すると、思い込みかどうかがはっきりします。
市場調査はどこまで調べれば十分ですか?
「主要な競合を3社以上挙げられ、それぞれと自社の違いを一文ずつ書ける状態」が一つの目安です。競合の名前が挙がらない、あるいは違いが「品質が高い」「丁寧」といった抽象的な言葉でしか書けない場合は、まだ調べ足りていません。調査の完了は、調べた時間の長さではなく、書き出せる違いの数で判断するのが確実です。
すでに強い競合がいる市場に、後から参入しても勝てますか?
参入できます。むしろ先客がいる市場のほうが、概念の説明を先に済ませてもらえている分、伝える手間が減ります。必要なのは同じ土俵で勝つことではなく、「その人の商品とは、ここが違う」と一文で言い切れる差を持つことです。相手と同じ言葉を使いながら、目的や対象、使う場面のどれかを明確にずらせるかどうかが分かれ目になります。
