この記事の要点
- 商談の進め方とは、提案を順に説明していく手順ではなく、相手が決められる状態に近づいているかを、その場で一緒に確かめていく進め方です。
- 「うちにはまだ早いですね」は断りとは限りません。順番が早いのか、時期が早いのか、確信が早いのか。どれかによって次の一手が変わります。
- 商談の出口は、受注か失注かではありません。次に何が決まればいいかが両者で一致している状態です。それをそろえる作業を「未定の棚おろし」と呼びます。
商談の進め方を調べている方が本当に困っているのは、話す順番ではないと思っています。「うちにはまだ早いですね」──あの一言で終わってしまうことのほうです。
私は企業や講師の方の裏方として、販売の導線をつくる仕事をしています。この記事では、商談の終わりにそろえておく作業をひとつだけ、順番つきでお渡ししますね。
なお、ここで扱うのは法人や個人事業の方に商品やサービスをご案内する商談です。自動車の購入や買取の値引き交渉ではありません。
商談の進め方とは何ですか
商談の進め方とは、こちらの提案を順に説明していく手順のことではなく、相手が決められる状態に近づいているかどうかを、その場で一緒に確かめていく進め方です。
説明が上手いかどうかと、決まるかどうか。この2つは、あまり関係がないんです。
もちろん、分かりにくい説明で決まるほど甘くはありません。そこは承知しています。ただ、決まらない商談の多くは、こちらの説明が足りなかったのではなくて──相手の側に、まだ決まっていないことが残っているんですよね。
だから確かめる対象は、相手が納得したかどうかではありません。相手が決められる状態にいるかどうか、です。
なぜ商談は「うちにはまだ早いですね」で終わるのですか
先に、自分の側を書きます。
私が最初に商談らしいことをしたのは、トレーナーとして独立したころでした。東京の綾瀬で、地域密着のパーソナルトレーニングを始めたんです。女性を健康にして、薬を飲む人を減らしたい。そういう考えでやっていました。
月に5件ほどお問い合わせをいただいて、目の前の方に高額のパッケージをご案内する。相手の顔が見える距離で、その場で決めていただく仕事です。
いまは、裏方の側にいます。裏方なので、発注する側の懐事情もずっと見てきましたし、自分が発注するときにも同じところを見ます。
売る側と買う側。両方に立ってみて、はっきりしたことがありました。
「まだ早い」は、こちらの提案への評価ではありません。相手の側の順番についての報告です。
私だって、買う側にいるときは言います。提案が悪いからではなくて、先に決めなければならないことが自分の中に残っているからです。それを一から説明するのは、正直、面倒なんですよね。だから一言でまとめてしまう。
……これ、本当に多いです。
「うちにはまだ早い」と言われたら、どうすればいいですか
「まだ早い」には、3つの中身があります。どれなのかで、次の一手がまったく変わるんです。
- 順番が早い。相手の中で、先にやることが残っています。ここで聞くのは「先に何を片づける必要がありますか」。そのうしろに自分を置かせてもらえば、話は終わりません。
- 時期が早い。予算や体制が決まる時期が、まだ来ていません。ここで聞くのは「それはいつごろ決まりますか」。金額ではなく、日付を聞くんです。
- 確信が早い。効果がまだ想像できていません。ここで必要なのは説明の追加ではなくて、小さく試せる形のほうです。
どれなのかを、こちらで決めつけないこと。聞けば、たいてい教えてもらえます。
「まだ予算は決まっていません」と言われたときは
予算が無いのではなく、決まる順番がまだ来ていない。そういう場合がほとんどです。
ここで金額を聞くと、相手は答えられません。そして──答えられない質問をされた側は、話を閉じにいきます。
聞くのは金額ではないんですよね。いつ、誰が、何をもとに決まるのか。この3つです。3つとも答えが返ってこないなら、その商談はまだ提案の段階ではありません。順番を確かめる段階にいます。
商談の進め方は、何から確かめればいいですか

- 決める人と決め方。誰が、何をもとに、いつ決めるのか。この3つを商談の前半で聞きます。目の前の方が決める人とは限らないんですよね。
- 相手の側で先に決まる必要があること。こちらの提案より前に、相手の中で決まらなければならないこと。ここが「まだ早い」の正体です。
- こちらの提案が、そのうちどれを埋めるか。提案の良さを並べるのではなく、相手の未定のどれを埋めるものなのかを、言葉にして渡します。
- 未定の棚おろし。終わりに、まだ決まっていないことを一緒に並べて、次に決める1つを選びます。
ここを飛ばすと、次が無くなります。
「未定の棚おろし」とは何ですか
未定の棚おろしとは、商談の終わりに、まだ決まっていないことを相手と一緒に並べて、どれが先に決まるかを確認する作業です。

やり方は3つです。
- 決まったことではなく、決まっていないことを口に出す。商談の最後にまとめるのは、合意した点ではありません。まだ決まっていない点のほうです。
- 相手の側の未定と、こちらの側の未定を分ける。分けないと、どちらが動く番なのかが曖昧になります。曖昧なまま別れた商談は、たいてい止まるんですよね。
- そのうち1つを、次に決めるものとして選ぶ。全部を持ち帰らせないこと。1つに絞ると、次に話すことが決まります。
この作業をすると、決まらなかった商談の意味が変わります。受注できなかった日ではなくて、未定が1つ減った日になる。そして次に何を話すかが、こちらの側ではなく、両者の側に残るんです。
「検討します」と言われて返事が来ないときも、考え方は同じです。返事が来ないときの3つの理由は、別の記事に書きました。
なぜ押さない進め方を勧めるのですか
その場で押せば、当日の数字は動きます。それは事実です。押せば決まる場面があることを、否定するつもりもありません。
ただ、押して決まった分だけ、相手の判断をこちらが預かることになります。預かった判断は、あとで返ってくるんですよね。解約や、静かな疎遠という形で。
私は、煽りや誇大な表現に頼らないやり方を選んできました。理由は、マーケティングを売る技術ではなく、売り手と買い手の見え方を揃える作業だと考えているからです。見え方が揃えば、いま買わない人は早く「いまではない」と言える。それは損ではないと思っています。値段そのものを疑う前に確かめることがあるのも、同じ理由です。
私はいまも、お誘いを受けたらなるべく直接会いに行くことを、自分の条件にしています。我ながら効率は良くないと思うのですが──紙とオンラインでそろうものには、やっぱり限りがあるので。
そして、誰かのために踏ん張っている人が、順番を確かめなかったというだけの理由で断られ続ける。それは、もったいないと思うんです。
保存版・商談の終わりに確認するリスト
- 決める人が誰かを聞けている
- 何をもとに決まるのかを聞けている
- いつごろ決まるのかを、日付の感覚で聞けている
- 相手の側で、こちらの提案より先に決まる必要があることを聞けている
- 自分の提案が、そのうちどれを埋めるのかを言葉にして渡した
- 「まだ早い」と言われたとき、順番・時期・確信のどれかを確かめた
- 予算の話で、金額ではなく決まり方を聞いた
- 終わりに、決まっていないことを声に出して並べた
- 相手の側の未定と、こちらの側の未定を分けた
- 次に決める1つを、両者で選んだ
- 次に話す日を、その場で置いた
- 断りたい場合の言い方を、こちらから渡した
商談は、こちらの提案を通す場ではありません。相手が決められる順番に、自分を置かせてもらう場です。順番が合っていれば、押さなくても進みます。合っていなければ──どれだけ上手に話しても、止まります。
私が書いているメールマガジンでも、こうした現場の順番の話を、実例つきでお届けしています。答えを配るのではなく、その日に自分へ問える一文をひとつ手渡すつもりで書いています。いただいた質問や感想には私が目を通していますので、よろしければ下のご案内からどうぞ。
最後にひとつ、持ち帰っていただければと思います。
あなたの直近の商談は、提案が届かなかったのでしょうか。それとも──相手の順番のどこに自分がいるのかを、まだ確かめていなかったのでしょうか。
よくある質問
商談の進め方は、何から始めればいいですか
決める人と決め方を聞くところから始めます。誰が、何をもとに、いつ決めるのか。この3つを商談の前半で確かめてください。そのうえで、相手の側で先に決まる必要があることを聞きます。こちらの提案の説明は3番目です。最後に、まだ決まっていないことを一緒に並べる「未定の棚おろし」をして、次に決める1つを選びます。
商談のコツを1つだけ挙げるとしたら何ですか
終わりに、決まったことではなく決まっていないことを口に出すことです。合意点をまとめて終える商談は、次に何を話すかが決まりません。決まっていないことを並べて、そのうち1つを次に決めるものとして選ぶと、受注できなかった日でも未定が1つ減ります。これを「未定の棚おろし」と呼んでいます。
商談とは何ですか。ただの打ち合わせとは違うのですか
商談とは、売り手と買い手が、取引を進めるかどうかを決めるために行う話し合いです。打ち合わせとの違いは、決めることが目的に含まれている点にあります。ただし、決めるのは必ずしも「買うかどうか」ではありません。次に何を決めるかが両者で一致すれば、その商談は前に進んでいます。
