この記事の要点
- 値上げの伝え方とは、新しい価格を知らせることではなく、相手がもう一度選び直すための材料を渡すことです。
- 値上げを伝えるのが怖いのは、断られるからではありません。相手が判断するための材料を、こちらが抱えたままだからです。
- 文面を書く前に4つを決めます。新しい価格、いつから変わるか、変わらないもの、断りたいときの言い方。この4つを「選び直しの材料」と呼びます。
値上げの伝え方を調べている方が本当に困っているのは、たいてい文面ではありません。「高いと思われるのではないか」という怖さのほうです。私は企業や講師の方の裏方として、販売の導線をつくる仕事をしています。この記事では、文面を書く前に用意しておく4つの材料を、順番つきでお渡しします。
値上げの伝え方とは何ですか
値上げの伝え方とは、新しい価格を知らせる作業ではなく、相手がもう一度選び直すための材料を渡す作業です。
「値上げのお知らせ」という言い方が、この作業を通知に見せてしまいます。実際にやっているのは通知ではなく、お願いです。同じ条件で続けてくださいというお願いではなく、新しい条件で、もう一度選んでくださいというお願いになります。
ですから相手には、断る権利があります。そこを認めたうえで書かれた文章は、不思議と読みやすくなります。逆に、断られない前提で書かれた文章は、どこか身構えた感じが残ります。
値上げを伝えるのが怖いのは、なぜですか
先に、自分の側を書きます。私は21歳で独立したあと、500万円以上の借金を抱えた時期があります。ガス代をリボ払いにしていました。当時の自分のことを、私は「もっとお金を稼がねば、と目玉を¥マークにしていた」と書いています。
そのあと、コピーの仕事に向かうと決めてから、初めてオンラインで売上が立ったのは、オンライン栄養指導を1万円で2名の方に販売したときでした。そのとき思ったのは「やっと、自分の言葉がお金に変わった」でした。金額の大小の話ではありません。値段というものが、生活とまっすぐつながっているということです。
だから、値段を上げる連絡が軽い作業になるはずがありません。ただ、怖さの中身は、多くの場合こう説明されます。「高いと思われたくない」「離れられたくない」。
けれども、怖さの正体はもう少し手前にあります。値上げが怖いのは、相手の判断を、こちらが預かったままだからです。相手が決めるために必要な情報を、こちらが抱えている。抱えている間は、相手は決められません。決められない相手を想像するから、こちらの怖さが膨らみます。
……これ、本当に多いです。文面を何度も直している時間は、たいてい材料が決まっていない時間です。

値上げを伝えるとき、何を先に決めればいいですか
選び直しの材料とは、値上げを伝えるときに相手へ渡す4つの情報のことです。新しい価格、いつから変わるか、変わらないもの、断りたいときの言い方。この4つを指します。
- 新しい価格──いくらから、いくらへ。税込か税別か。「10%の改定」ではなく、金額そのもので書きます。率で書かれた文章は、読む人が計算を頼まれた状態になります
- いつから変わるか──適用日を日付で書きます。加えて、いま続いている契約・回数券・すでに申し込まれた分がどう扱われるか。ここが空くと、相手は「自分の場合はどうなるのか」を確かめるまで判断できません
- 変わらないもの──内容、回数、担当、連絡の取り方。値段以外は同じだと分かる状態にします
- 断りたいときの言い方──いつまでに、どこへ、どう伝えれば終えられるか。断り方をこちらから書くのは、去る背中を押すことではありません。判断を相手に返す一行です

ここが抜けていると、値段の話が終わりません。人は値段が変わると、他も変わるのではないかと考えます。回数が減るのか、担当が替わるのか、対応が薄くなるのか。何も変わらないなら、そう書いてあるほうが、値上げの理由を並べるよりずっと効きます。
理由については、1つだけにします。原材料、人件費、時間、体制。どれであっても事実を短く書けば足ります。理由が長くなるほど、読む人には言い訳として届きます。価格設定の考え方。値下げする前に確かめる3つの質問でも書きましたが、値段の理由は、多く並べたから伝わるものではありません。
値上げのお知らせの例文は、そのまま使えますか
使えます。ただし、空欄が埋まるならばです。
例文を前にして手が止まるのは、文章力の問題ではありません。4つのうちのどれかが、まだ決まっていないからです。決まっていないことは、どんな言い回しでも埋まりません。型は使ってかまいませんが、型に自分を合わせにいくと、決めるべきことが先送りになります。
並べる順番は、次の4行です。
- いつから、いくらになるか(結論を先に)
- 変わらないもの
- 理由を1つ
- 断りたいとき・相談したいときの連絡先と期限
感謝の言葉を冒頭に長く置くと、本題が下へ押し出されます。読む人は結局、金額を探しに行きます。感謝は最後に短く置くほうが、素直に読まれます。
値上げを伝えて、断られたらどうしますか
断られることは、失敗ではありません。値段を上げるというのは、届ける相手を選び直すことでもあります。全員に残ってもらう前提で書くと、文章はどうしても言い訳の形になります。
やめる方が出たときは、戻ってこられる形で終えます。連絡先を残す、再開の条件を一行添える。それだけで、去り方が断絶になりません。
返事が来ない場合の読み方は「検討します」は断り文句か。返事が来ないときの3つの理由と一通に書きました。相手が判断できたのなら、その連絡は役目を果たしています。残るか、やめるか。どちらであっても、決められた状態にしたことが、こちらの仕事です。
なぜ、この話を書いているのですか
私は、煽りや誇大な表現に頼らないやり方を選んできました。
そういうやり方を選んだ人ほど、値上げを遅らせます。相手の事情が見えているぶん、言い出しにくいからです。そして遅らせた時間の分だけ、自分の側で吸収します。時間を削り、手間を足し、それでも同じ値段で続ける。丁寧に仕事をしている人ほど、そうなりやすい。
マーケティングは、売る技術というより、売り手と買い手の見え方を揃える行為だと思っています。値上げの連絡は、その揃え直しにあたります。押すための文章ではありません。誰かのために踏ん張っている人が、言い出せなかったというだけの理由で疲れていくのは、もったいないことです。
保存版:値上げを伝える前の確認リスト(選び直しの材料)
- 新しい価格を、率ではなく金額で書いた
- 税込か税別かを書いた
- 適用日を日付で書いた
- いま続いている契約・回数券・申込済みの分の扱いを書いた
- 変わらないもの(内容・回数・担当・連絡の取り方)を書いた
- 理由は1つに絞り、事実だけを短く書いた
- 断りたいときの言い方・連絡先・期限を、こちらから書いた
- 結論を1行目に置き、感謝は最後に短く置いた
- やめる方が戻ってこられる一行を残した
- この連絡を受け取った人が、その場で決められる状態になっている
値段の決め方や、伝えたあとに実際どんな返事が来るのかは、お送りしているメールのなかで具体的な例つきでお届けしています。続きを読んでみたいと思われたら、下のご案内からどうぞ。
最後にひとつ、持ち帰っていただければと思います。
あなたがいま値上げをためらっているのは、価格そのものが理由でしょうか。それとも、4つのうちのどれかが、まだ決まっていないからでしょうか。
よくある質問
値上げのお知らせの例文は、そのまま使ってもいいですか
使ってかまいませんが、空欄が埋まるかどうかで判断してください。例文を前に手が止まるのは、文章力ではなく、決めるべきことが決まっていないからです。新しい価格(率ではなく金額)、適用日(日付)、変わらないもの、断りたいときの言い方。この4つが埋まっていれば、どの例文を使っても伝わります。埋まらないうちは、言い回しをいくら変えても解決しません。
値上げの交渉に応じないと言われたときは、どうすればいいですか
まず、断られたこと自体は失敗ではないと考えてください。そのうえで確かめるのは2つです。1つは、判断に必要な材料が全部渡っていたか(とくに「変わらないもの」を伝えたか)。もう1つは、相手が断っているのは価格なのか、切り替えの手間なのか。手間が理由なら、移行の段取りをこちらで引き受けるだけで話が変わることがあります。それでも折り合わないときは、旧価格の期限を決めて区切り、戻ってこられる連絡先を残して終えます。
値上げのお知らせのテンプレートには、何が足りないことが多いですか
いちばん抜けやすいのは「変わらないもの」と「断りたいときの言い方」の2つです。テンプレートは、価格・適用日・理由・感謝という4点で組まれていることが多く、この2つが入っていません。人は値段が変わると内容も変わると考えますし、断り方が書かれていないと、黙って離れるほうを選びます。テンプレートを使う場合は、この2項目を自分で足してください。
