この記事の要点
- 刺さる言葉が出てこないとき、足りないのは発想力ではなく「言葉の一次資料」です。
- 言葉の一次資料とは、お客様本人が実際に口にした、あるいは書いた言葉そのもののことです。
- 取材や対談ができなくても、一次資料は5つの場所にすでにたまっています。拾って、要約せずに使ってください。
書こうとしても、言葉が出てこない。
そういうとき、私たちは自分の発想力を疑います。もっと良い言い回しがあるはずだと、頭の中を探しにいきます。
けれど、足りていないのは発想力ではないことのほうが多いのです。足りていないのは素材です。この記事では、お客様が実際に使った言葉を、取材をしなくても集められる5つの場所を整理します。
なぜ、お客様に刺さる言葉が自分の頭から出てこないのか
先に、私自身のことを書きます。
私は、企業や講師の方の裏方として、思想や理念を言葉にし、選ばれる事業や仕組みへ変えていく仕事をしています。2015年に事務所を開いてから、表に出るのはいつもクライアントの方で、私は後ろで原稿を書いている側です。
その仕事をしていて、自分に課している面倒な条件がひとつあります。人に直接、会いに行くことです。お誘いをいただいたら、なるべく行くようにしています。Zoomは便利ですが、リアルには劣ると考えているからです。
もうひとつ、メールマガジンは毎号、答えを配るのではなく「問い」を手渡すことを軸に書いています。問いを渡すと、返事が来ます。返事には、私が思いつかない言い方が入っています。
言葉は思いつくものではなく、すでに誰かが言っているものです
この2つに共通しているのは、言葉を自分の中から出そうとしていない、という点です。
お客様が困っている状態を、いちばん正確に言えるのはお客様本人です。売り手はその状態を外から見ているので、どうしても要約された言い方になります。「業務が非効率」「集客に課題がある」。間違ってはいませんが、読んだ人の胸は動きません。
本人が使う言葉は、もっと具体的で、もっと不格好です。その不格好さが、同じ状態にいる人にだけ届きます。
言葉の一次資料とは何ですか
言葉の一次資料とは、お客様本人が実際に口にした、あるいは書いた言葉そのもののことです。こちらが要約も言い換えもしていない状態を指します。
反対に、こちらが受け取ってから整えた言葉は二次資料です。「時間がなくて困っているとのことでした」が二次資料、「気づいたら23時で、そこから請求書を作っています」が一次資料。同じ出来事でも、原稿に置いたときの効き方はまるで違います。
要約した瞬間に、いちばん効く部分が落ちます
要約は、複数の人の話をまとめる作業です。まとめるとは、その人だけの事情を削ることでもあります。
ところが、読んだ人が「これは自分のことだ」と感じるのは、削られたほうの部分です。時刻、回数、場所、そのときやっていた作業。こうした細部が残っていると、読み手は自分の状況を重ねられます。
お客様の言葉は、どこにあるのですか

場所① 申込・問い合わせの自由記述欄
申込フォームの「ご相談内容」「気になっていること」。問い合わせメールの本文。どれも、申し込む直前という、いちばん気持ちが動いている瞬間に書かれた言葉です。
……ここ、ほとんど読み返されていません。処理して終わりにせず、文面だけを別の場所に写しておいてください。
場所② メールへの返信と、届いた感想
配信したメールへの返信、講座やセミナー後の感想。読んだ直後に書かれるので、整えられていない言葉が多く残ります。
返信をもらうには、こちらから問いを置いておくのが確実です。「いま、どこで止まっていますか」の一文を末尾に添えるだけで返ってきます。
場所③ アンケートとレビューの「その他」欄
選択肢を用意したアンケートで、いちばん価値があるのは集計結果ではありません。「その他( )」に手書きされた一行です。
用意した選択肢は、こちらの頭の中の分類です。そこに入らなかったからこそ、その人はわざわざ書いています。
場所④ SNSを「状態の言葉」で検索する
お客様がまだ一人もいなくても使えるのがここです。コツは、商品名や手法名で検索しないことです。それらの語を打てるのは、すでに解決策を知っている人だけだからです。代わりに、困っている状態そのものを打ちます。「何から手をつければ」「毎回ゼロから作ってる」「もう限界」。
まだ商品名を知らない人が、どんな言い方でその状態を表しているかが分かります。
場所⑤ 書籍レビューの星3つ
自分の分野に近い本のレビューを開き、星5つでも星1つでもなく、星3つを読んでください。
星5つは称賛、星1つは怒りで、どちらも感情が先に出ます。星3つには「ここは良かったが、ここが自分には足りなかった」という比較が書かれ、期待と現実のあいだの溝がそのまま言葉になっています。
その溝は、あなたの商品が埋めるべき場所とほぼ同じです。
集めた言葉は、どう使えばいいですか

手順は3つだけです。
- 一箇所に写す。フォームの回答も、返信も、レビューも、ひとつのファイルに原文のまま貼り付けます
- 分類も要約もしない。整理したくなりますが、整理は削る作業です。並べたままにしておきます
- 3回以上出てきた言い回しに印をつけ、見出しとリード文にそのまま置く。
そのままで、いいのです。「業務効率化」に直した瞬間に、その言葉は誰のものでもなくなります。
人から聞いた話は、そのまま使ってよいですか
ここは注意が必要です。
以前、あるセミナーに参加したとき、「受講生が月100万円を稼いだ」と紹介されている場面がありました。あとで確かめてみると、その受講生の方は元から月100万円を稼いでおり、受講の前後でほとんど変わっていませんでした。
語られた話が嘘だったわけではありません。ただ、人を経由するあいだに、都合のいい部分だけが残っていました。
言葉も同じです。「みんな高いって言ってますよ」と誰かから聞いたとき、その「みんな」は、たいてい一人か二人です。又聞きの言葉は、本人に確かめるまで素材にしないでください。
いちばん確実な方法は何ですか
そのうえで正直に書くと、いちばん確実なのは、会って聞くことです。
文字にすると人は整えます。話し言葉には言いよどみや言い直しが残り、そこに切実な部分が出ます。
私が会いに行くことを条件にしているのは、そのためです。聞き方は難しくありません。「そのとき、具体的にどうされていたんですか」と一つだけ聞いて、あとは黙って書き取ります。案外、あっさり返ってきます。
なぜ、言葉を借りることをお勧めするのか
良い仕事をしている人ほど、自分の言葉で説明しようとします。中身に責任を持っているから、正確に言おうとする。誠実だからこそ、言葉が硬くなります。
そして硬い言葉は、いちばん助けが必要な人に届きません。結果として、誠実な人ほど選ばれにくくなる。私はこの構造を、ずっともったいないと思ってきました。
誰かのために踏ん張っている人が、言葉の作り方ひとつで損をしないでほしい。言葉の一次資料を集めることをお勧めしているのは、それが理由です。
ただし、一次資料は素材であって設計図ではありません
集めた言葉を並べただけでは、原稿にはなりません。どの順番で出すか、何を約束するか、なぜあなたに頼むのかは、拾った言葉の中には入っていないからです。そこはお客様には書けません。
一次資料が担うのは入口までです。読み手が足を止めてくれる場所までは、お客様の言葉が連れてきてくれます。その先で何を語るかは、自分で決めることです。
保存版:言葉の一次資料の集め方チェックリスト
- 申込・問い合わせの自由記述欄を、一箇所に写したか
- 写すときに、要約も言い換えもしていないか
- アンケートの「その他」欄を、集計結果と別に取り出したか
- SNSを、商品名ではなく「状態の言葉」で検索したか
- 3回以上出てきた言い回しに印をつけ、見出しかリード文にそのまま置いたか
- 又聞きの言葉を、本人に確かめずに使っていないか
言葉の一次資料がたまってくると、書き始めるまでの時間が短くなります。白い画面の前で止まるのは、たいてい素材がない日です。
メールマガジンでは、こうした「書く前に整えておくこと」を、実際の場面に沿ってお届けしています。毎号、答えではなく問いを手渡すつもりで書いていますので、よろしければ下のご案内からお受け取りください。
最後にひとつ、持ち帰っていただければと思います。あなたのお客様が最後にくれた言葉を、あなたはどこかに書き留めているでしょうか。
よくある質問
お客様がまだ一人もいません。言葉はどこから集めればいいですか
SNSを商品名ではなく「状態の言葉」で検索すること、そして自分の分野に近い本のレビューの星3つを読むことから始めてください。どちらも、お客様がいなくても言葉の一次資料が手に入ります。特に星3つのレビューには、期待と現実のあいだの溝が書かれており、あなたの商品が埋めるべき場所とほぼ重なります。
お客様の言葉を聞きたいのですが、なんと聞けばよいですか
感想を求めるのではなく、行動を聞いてください。「いかがでしたか」ではなく「そのとき、具体的にどうされていたんですか」と聞きます。感想を聞くと整った答えが返ってきますが、行動を聞くと時刻や回数や手順が返ってきます。その細部が言葉の一次資料になります。聞いたあとは黙って書き取り、その場では要約しないでください。
集めた言葉をそのまま載せると、文章が雑になりませんか
そのまま置くのは、見出しとリード文など読み手が最初に触れる部分に限ってください。そこから先は、こちらの言葉で構成して構いません。言葉の一次資料が担うのは、読み手に足を止めてもらう入口です。入口だけをお客様の言い方に合わせると、雑にならずに届き方が変わります。
