この記事の要点
- 「高いから断られた」と感じる場面の多くは、金額そのものではなく「値段の理由」が相手の中で組み上がっていないことが原因です。
- 値段の理由とは、その金額を払うと自分の何がどう変わるのかを、買う人自身の言葉で説明できる状態のことです。
- 値下げは、頑張っている人がいちばん先に自分を削る方法です。下げると決める前に、3つの質問を通してください。
「もう少し、お安くなりませんか」
この一言を受け取ると、断られた理由は金額だったのだと考えてしまいます。そして次の見積もりから、少しずつ数字を下げていきます。
けれど実際に話を聞いていくと、金額そのものが理由だった場面は、思っているほど多くありません。多いのは、その金額を払う理由が、相手の中で組み上がっていない場合です。この記事では、値下げを決める前に通しておきたい3つの質問を整理します。
なぜ「安くすれば選ばれる」と思ってしまうのか
先に、私自身の話をします。
私は21歳で独立しました。そこから軌道に乗るまでのあいだに、500万円以上の借金と、極貧と呼んでいい生活を経験しています。ガス代をリボ払いにしていた時期もありました。
そのころの自分を振り返ると、「もっとお金を稼がねば」と、目玉を¥マークにしていたと思います。
そういう時期を通ってきたので、値段を下げたくなる気持ちは、よく分かるつもりです。
余裕がないときの金額は、相手ではなく自分のほうを向く
手元に余裕がないとき、目の前の一件は絶対に逃したくない仕事になります。その状態で出す金額は、相手にとっての価値ではなく、自分が断られたくない気持ちのほうを向いていきます。
そして値下げには、その場で効いてしまうという厄介な性質があります。下げれば決まることがある。だから、次も下げます。
気づいたときには、同じ仕事量で入るお金だけが減っています。……これ、本当に多いです。
「値段の理由」とは何ですか
値段の理由とは、その金額を払うと自分の何がどう変わるのかを、買う人自身の言葉で説明できる状態のことです。
売り手が説明できる状態ではありません。買う人が、自分の言葉で言える状態です。ここが分かれ目になります。
私は、マーケティングを「売る技術」だとは考えていません。売り手と買い手の、世界の見え方を揃える行為だと思っています。値段の理由が届いているというのは、その金額の意味について、二人が同じ景色を見ている状態のことです。
「高い」という言葉は、たいてい要約されたあとの言葉です
断るとき、人は長い説明をしません。理由を一言に丸めて渡してくれます。その一言として、いちばん使いやすいのが「高い」です。
角が立たず、相手を傷つけず、それ以上の説明もいりません。だから、本当の理由が別のところにあっても、出てくる言葉は「高い」になります。
ここを額面どおりに受け取ると、直すべき場所を間違えます。
値下げする前に確かめる3つの質問

質問① その金額で、相手の何がどう変わりますか
最初に確かめるのは、提供している内容ではなく、そのあとに起きる変化のほうです。
「申込ページを作ります」は内容です。「今おひとりで返している問い合わせが減ります」は変化です。前者だけを並べても、値段の理由にはなりません。
変化を言うときは、相手の仕事や生活の言葉を使ってください。業界の言葉で言い換えたものは、相手の中で自分のこととして組み上がりません。
質問② 比べられている相手は、本当に同業ですか
値段が高いと感じられるとき、頭の中では何かと比べられています。その比較の相手を、私たちは同業他社だと思い込みがちです。
実際には、次の3つが比較の相手になっていることのほうが多いと感じています。
- 自分でやる(時間はかかるが、お金は出ていかない)
- 何もしない(今のままでも、今日は困らない)
- まったく別のことにそのお金を使う
相手が「自分でやる」と比べているなら、同業より安くしても意味がありません。そこで示すべきなのは安さではなく、自分でやった場合にかかる時間と、その時間で本来できたはずのことです。
質問③ 断られた理由を、相手の言葉で聞きましたか
3つ目は、いちばん気が重く、いちばん効きます。
断られたあとに「差し支えなければ、決め手になった点を教えていただけますか」と一言だけ聞く。それだけで、丸められる前の理由が戻ってくることがあります。
時期が合わなかった。社内で通す材料が足りなかった。頼んだあとに自分がやることの量が読めなかった。どれも値下げでは解決しない理由です。
「値段の理由」が届いていない例と、届いた例

上と下で、金額は変えていません。変えたのは、その金額のあとに何が起きるかを、相手の言葉で書いたかどうかだけです。
「丁寧にお作りします」は、こちらの姿勢の話です。姿勢は大切ですが、相手が社内で説明するときには使えません。
下の言い方には、数と時間が入っています。数と時間が入ると、相手はその金額を自分の状況の中に置いて考えられるようになります。
裏方から見て、発注する側が本当に見ているもの
私は、企業や講師の方の裏方として、思想や理念を言葉にし、選ばれる事業や仕組みへ変えていく仕事をしています。表に出るのはクライアントの方で、私は後ろで手を動かしている側です。
裏方なので、発注する側の懐事情をずっと見てきましたし、私自身が誰かに発注するときにも、そこはよく見ています。
そのうえで感じているのは、発注する人が最後に見ているのは安さではない、ということです。見ているのは、「この金額を出したことを、あとで自分が説明できるか」です。
説明できる材料を渡すのは、売り手の仕事です
社内で稟議を通す人。家族に相談する人。ひとりで決めていても、半年後の自分に説明する人。誰もが、何かしらの説明の場面を持っています。
そのとき手元に、変化と、数と、期間があれば、話は通ります。「良さそうだったから」しかなければ、決めた本人が苦しくなります。
値段の理由をそろえるというのは、相手に説明の材料を渡すことです。それは相手を説得することではなく、相手が自分で決められるようにすることだと考えています。
それでも値段を下げたほうがいい場合はありますか
あります。3つの質問は万能ではないので、そこははっきり書いておきます。
質問①〜③を通しても変化を具体的に言えないなら、値段ではなく中身のほうに未完成な部分が残っています。その場合は、下げるより先に、提供する範囲を決め直したほうが早く進みます。
また、意図して「量を取りにいく」局面もあります。実績をそろえたい時期、事例を作りたい時期です。ただしそれは「選ばれるための値下げ」ではなく「量を取るための投資」なので、期間と本数を先に決めてから始めてください。決めずに始めた値下げは、たいてい元に戻せなくなります。
私がこの順番にこだわる理由
値下げは、いちばん先に自分を削る方法です。そして真っ先に削るのは、たいてい、誰かのために踏ん張っている人のほうです。従業員のため、家族のため、待ってくれているお客様のため。自分を後回しにできる人ほど、先に自分の取り分から削ります。
私は、そういう人が正しく報われてほしいと思って、この仕事をしています。だから、煽って売る方法ではなく、値段の理由をそろえる方法をお勧めしています。
保存版:値下げを決める前の確認リスト
- その金額で相手の何がどう変わるかを、相手の言葉で1文書いたか
- 比べられている相手が同業なのか、「自分でやる」「何もしない」なのかを確かめたか
- 断られた理由を、相手の言葉で聞いたか
- 提案に、変化と数と期間が入っているか
- 下げると決めたなら、その期間と本数を先に書いたか
値段の理由がそろってくると、金額の話をされる回数そのものが減っていきます。減らないときは、値段ではなく、伝える順番のどこかがまだ届いていないということです。
メールマガジンでは、こうした「決める前に整えておくこと」を、実際の場面に沿ってお届けしています。いただいた質問や感想には私自身が目を通していますので、よろしければ下のご案内からお受け取りください。
最後にひとつ、持ち帰っていただければと思います。いちばん最近のお客様は、あなたの商品の値段の理由を、自分の言葉でなんと言っていたでしょうか。
よくある質問
値下げをお願いされたとき、その場でどう答えればいいですか
その場で金額を動かさず、範囲の話に置き換えるのがいちばん穏やかです。「この金額のままだと難しい場合、どこまでを今回やるかをご相談させてください」と伝えます。金額を下げるのではなく、やることを減らして金額を合わせる形です。値段の理由を保ったまま、相手の予算に近づけられます。
すでに安く受けてしまった相手に、値上げを伝えるにはどうすればいいですか
ここは、私もよく聞かれます。過去の金額の説明から入らず、次回からの範囲を書き出して、その範囲に対する金額として提示するのが伝わりやすい形です。「値上げします」ではなく「次回からはここまでを含めた形にします」と伝えます。時期は、次の契約や次の依頼の切れ目に合わせてください。
相場が分からず、値段の決め方そのものに自信がありません
他社の平均を探し回るより、自分の過去の数字を物差しにするほうが早く進みます。これまでに受けた仕事の金額と、実際にかかった時間を並べてみてください。1時間あたりいくらで働いていたかが出ます。そのうえで、その仕事が相手にもたらした変化と見比べると、今の金額が安すぎるのか妥当なのかが判断できます。
