この記事の要点
- 言葉が刺さらない原因の多くは表現力ではなく、お客様が今どんな状態にいるのかを一文で書けていないことにあります。
- 状態は「商品名・業界用語・カタカナの抽象語を使わず、いつどこで何をしているときかが見える一文」で書くと正確になります。
- 状態が一文で書けると、見出し・検索キーワード・メールの件名は、その一文からほとんど自動的に決まります。
「もっと刺さる言葉はないでしょうか」
コピーの相談で、いちばん多くいただくご質問です。そして私は、たいていの場合その手前をお聞きします。「そのお客様は今、どんな状態にいますか」と。
ここで詰まってしまうとき、原因は表現力ではありません。誰に何を言うのかが、まだ決まっていないだけです。この記事では、お客様の状態を一文で書く方法と、書けたかどうかを確かめるテストを整理します。
「刺さる言葉」を探しているうちは、見つからない
言葉を探すという作業は、実はとても危ういものです。探している時点で、私たちは自分の語彙の中を探しています。けれどお客様は、こちらの語彙の外側にいます。
たとえば「集客の仕組みを整えませんか」という一文。書いた側は親切なつもりですが、読む側は自分のことだと気づきません。仕組みが足りないと思っている人は、もうその言葉で検索しているからです。まだ気づいていない人にとっては、自分の話に見えないのです。
一方で、こう書かれていたらどうでしょうか。「紹介が途切れた月に、次に何をすればいいのか分からない」。この一文には、商品の話も、こちらの専門用語も出てきません。ただ、その人が今いる場所だけが書かれています。
刺さる言葉とは、うまい言い回しのことではありません。相手が今いる場所を、相手の言葉で言い当てた一文のことです。
だから探すのではなく、観察して書き写すほうが近道になります。

「状態」とは何か——ニーズでもペルソナでもありません
状態という言葉を、もう少し正確にしておきます。
ニーズは「欲しいもの」、状態は「今そこで起きていること」
ニーズは「売上を増やしたい」「時間が欲しい」のように、欲しい結果のことです。これは書きやすいのですが、書いたところで誰にでも当てはまります。売上を減らしたい人はいませんから、差がつきません。
状態は違います。「見積もりを出したあと、催促のメールを送るか3日迷っている」。ここまで書くと、当てはまる人と当てはまらない人がはっきり分かれます。言葉が刺さるかどうかは、当てはまらない人がちゃんといるかどうかで決まります。
属性をいくら足しても、言葉は決まらない
年齢、性別、業種、役職。こうした属性を積み上げても、書くべき一文は出てきません。40代の個人事業主だと分かっても、その人が明日何に困って検索するかは分からないからです。
属性は「誰に届けるか」を決めるための情報で、「何を言うか」を決める情報ではありません。この二つを混同すると、詳しく設定したのに書けない、という状態になります。
お客様の「状態」を一文で書く、3つのルール
では実際にどう書くか。私が原稿を書く前に必ず通している手順を、そのままお伝えします。

ルール① 商品名・業界用語・カタカナの抽象語を使わない
まず、こちら側の言葉をすべて禁止します。商品名、サービス名、業界用語。そして「ブランディング」「仕組み化」「最適化」といったカタカナの抽象語も使いません。
これらは便利なので、使うと書けた気になります。けれど便利な言葉は、輪郭を溶かします。「発信を仕組み化できていない状態」と書いた瞬間、その一文は誰の顔も思い浮かばないものになります。
使ってよいのは、お客様が家族に愚痴をこぼすときに使う言葉だけ。これくらいの制限をかけると、急に書きにくくなります。書きにくくなったら、正しい方向に進んでいます。
ルール② 「いつ・どこで・何をしているときか」を入れる
次に、場面を入れます。状態は、時間と場所を伴って初めて像を結びます。
「不安を感じている」では、まだ何も書けていません。「日曜の夜、来月の入金予定を数えて、足りない分を計算し直している」まで書くと、読んだ人の頭に映像が浮かびます。
ここで大事なのは、想像で盛らないことです。実際に聞いた場面、実際に見た場面だけを書きます。思いつきで作った場面は、必ずどこかが嘘くさくなり、読んだ本人がいちばん先に気づきます。素材がなければ、書く前にお客様に聞くのが結局いちばん速い道です。
ルール③ 感情ではなく、行動と事実で書く
三つめは、感情を直接書かないことです。
「不安です」「焦っています」と書くのは簡単ですが、これは相手の内側の話で、こちらには本当は見えていません。見えているのは行動のほうです。「同じページを3回開いて、申し込まずに閉じた」「下書きを保存したまま、2週間送っていない」。
行動で書くと、読んだ人は自分でその感情にたどり着きます。こちらが名前をつけた感情より、相手が自分でつけた名前のほうが、はるかに強く残ります。感情はこちらから渡すものではなく、相手の中で起こしてもらうものです。
書けたかどうかを確かめる、3つのテスト
一文が書けたら、出す前に必ず確認します。私が使っているのは次の3つです。
テスト① 本人が読んで「なぜ知っているんですか」と言うか
もっとも確実なテストです。書いた一文をそのままお客様に見せて、どう反応するかを見ます。
「そうですね」と穏やかに同意されたら、まだ足りていません。当たり障りのないことを書いている証拠です。目指すのは、少し驚かれる状態です。誰にも言っていないはずのことが書かれている、という驚きが起きたときだけ、その一文は機能します。
テスト② 競合の商品にも、そのまま当てはまらないか
書いた一文を、同じ分野の他社の案内文に貼り付けてみます。違和感なくはまってしまうなら、粒度がまだ粗いということです。
誰にでも使える一文は、誰のためでもない一文です。貼り付けたときに「これは違う」と感じる程度まで具体化できて、はじめて自分の言葉になります。
テスト③ その一文を、そのまま検索窓に入れられるか
最後は検索の視点です。書いた一文を、そのまま検索窓に入れる人がいるかを考えます。
お客様は商品名では検索しません。自分の状態を、そのままの言葉で打ち込みます。だから状態が正確に書けていれば、それは検索される言葉とほとんど重なります。逆に、自分の一文が検索語としてまったく想像できないなら、まだこちら側の言葉が混じっています。
一文が書けると、次の3つが自動で決まります
ここまでの作業は地味ですが、見返りは大きいものです。状態が一文で書けると、その先の判断がほとんど機械的に決まっていきます。
- 見出し——状態の一文を疑問形にするか、その状態が終わったあとの景色を書くか。見出しの候補は、その一文から派生させるだけで出てきます。ゼロから考える必要がなくなります。
- 検索キーワード——テスト③で確認したとおり、状態の言い換えはそのまま検索語の候補になります。同じ状態を3通りに言い換えれば、狙う語の候補が3つ手に入ります。
- メールの件名・広告の一行目——ここは字数が少なく、抽象語を入れる余裕がありません。状態が一文で書けていれば、その前半を切り取るだけで済みます。
つまり、この一文を書く時間は、あとの工程の時間を丸ごと減らすための投資です。急いでいるときほど、先にここに時間を使ったほうが結果的に速く終わります。
まとめ
言葉が刺さらないとき、私たちはつい表現を磨こうとします。けれど多くの場合、足りていないのは表現ではなく観察です。
お客様が今いる場所を、こちらの言葉を一つも使わずに、一文で書けるか。この一文が書けたとき、コピーはもう半分書き終わっています。残りは、その状態から出口までの道を順番に説明するだけだからです。
まずは、思い浮かぶお客様をひとり選んで、その方の日曜の夜を一文で書いてみてください。うまく書けないとしたら、それは文章力の問題ではなく、まだその方のことを十分に聞けていないというサインです。
書けたかどうかの確認(保存版)
- 商品名・業界用語・カタカナの抽象語が入っていない
- いつ・どこで・何をしているときかが書かれている
- 感情ではなく、行動と事実で書かれている
- 本人が読んで少し驚く(「そうですね」で終わらない)
- 競合の案内文に貼ると違和感がある
- その一文を検索窓に入れる人が想像できる
この「状態を書く」作業を実際の仕事でどう回しているか、どんな質問でお客様から場面を引き出しているかといった具体的なところは、メールマガジンのほうでお届けしています。日々の仕事の中で見つけた判断の材料を、そのままの温度でお送りしています。
よくある質問
お客様の「状態」と「ペルソナ」は何が違いますか?
ペルソナは年齢・職業・家族構成といった人物像の設定で、誰に届けるかを決めるための情報です。状態は、その人が今どんな場面で何に手が止まっているかという事実で、何を言うかを決めるための情報です。ペルソナをどれだけ細かく設定しても書く言葉は決まりませんが、状態が一文で書けると見出しも検索語も自動的に決まります。両方を作る場合は、ペルソナは配信先の選定に、状態は本文の言葉づくりに使い分けてください。
お客様にヒアリングできない場合、状態はどう書けばよいですか?
想像で作らず、実在する言葉を集めるところから始めてください。過去にもらったお問い合わせ文、申込フォームの自由記述、レビューやSNSの投稿、同じ悩みを扱う書籍の読者レビューが使えます。共通するのは、いずれもお客様自身が自分の言葉で書いたものであることです。自分で考えた状態は必ず整いすぎて嘘くさくなるため、実際に使われた言い回しをそのまま拾うほうが確実です。
状態を一文で書くと、対象が狭くなって集客が減りませんか?
実際には逆に働くことが多くなります。誰にでも当てはまる言葉は、誰も自分のことだと思わないため反応が起きません。特定の状態を言い当てた一文は、その状態にいる人が強く反応し、周辺にいる人も「近い話だ」と読み進めます。対象を絞ることと、届く人数を減らすことは別のことです。不安な場合は、同じ状態を3通りに言い換えて別々の記事や広告文にすると、絞りながら入口の数を増やせます。
