この記事の要点
- お客様の気持ちを「不安です」と書いた時点で、その一文は書き手の要約になっています。読む人は自分のことだと気づけません。
- 行動の一文とは、お客様の気持ちを「不安です」のような感情の言葉で言い表さず、その人が実際にとった動きだけで書いた一文のことです。
- 感情の言葉に印をつけ、そのとき何をしていたかに書き換え、時刻・回数・手順のどれか1つを足す。手順はこの3つだけです。
「不安を抱えている方へ」
この一文を読んで、自分のことだと思う人はほとんどいません。書いた側は、読む人の状態を言い当てたつもりでいます。……ここ、書いている側からはなかなか見えません。
この記事では、感情の言葉を使わずにお客様を描く「行動の一文」の作り方を、3つの手順と書き換えの例で整理します。
「不安を抱えている方へ」と書いても、なぜ届かないのですか
先に、自分の話から書きます。
私は、企業や講師の方の裏方として、思想や理念を言葉にし、選ばれる事業や仕組みへ変えていく仕事をしています。表に出るのはクライアントの方で、私は後ろで原稿や導線をつくっている側です。
以前、タイの貧困地域にあるホテルに泊まったことがあります。シャワーは出ません。窓は閉まりません。玄関には、ロックが8つ付いていました。
この部屋のことを「大変な部屋でした」と書けば、一言で済みます。ただ、それでは何も伝わりません。ロックが8つ、と書いたときにだけ、読んだ方の頭の中にその扉が立ち上がります。
ちなみに私がこの部屋から持ち帰ったのは、大変だったという感想ではありませんでした。日本ではシャワーが出るし、鍵は1つで足りる。その当たり前のありがたさのほうでした。
感情の言葉は、書き手がすでに要約したあとの言葉です
「不安」「もやもや」「行き詰まっている」。これらは、書き手が相手の様子を見て、自分の中でまとめた結論です。
まとめた結論だけを渡されても、読む人は自分の場面を思い出せません。思い出せなければ、自分のことだとは気づけません。
短く整えるほど、伝わらなくなる。不思議ですが、そうなります。
行動の一文とは何ですか
行動の一文とは、お客様の気持ちを「不安です」のような感情の言葉で言い表さず、その人が実際にとった動きだけで書いた一文のことです。

書き換えの例を3つ挙げます。いずれも実在の方の話ではなく、書き方を示すための例です。
- 「料金に不安を感じています」 → 「見積書を開いて、閉じて、また開いた」
- 「集客に行き詰まっています」 → 「同じ講座の申込ページを、3日続けて見に行った」
- 「情報が多すぎて疲れています」 → 「保存した記事が40本たまり、1本も読み返していない」
右側の文には、感情の言葉が一つも入っていません
それでも、読む人はそこに気持ちを感じ取ります。感情は、書いて渡すものではなく、行動を読んだ人の中で起きるものだからです。
言い方を変えると、感情の言葉を書くのは、読む人の仕事を先に奪ってしまう行為です。奪われた人は、自分で思い出す機会をなくします。
感情の言葉を行動に置き換えるには、どうすればいいですか

手順① 原稿の中の感情の言葉に、印をつける
まず、書き上げた原稿を読み返して印をつけます。「不安」「悩み」「もやもや」「焦り」「疲れ」。この種類の言葉です。
印がついた場所は、うまく書けていない場所ではありません。まとめすぎている場所です。直すのはそこだけで足ります。
手順② そのとき、その人が何をしていたかに書き換える
印をつけた言葉を、動きに置き換えます。開いた、閉じた、調べた、下書きのまま止めた、人に相談した、しなかった。
ここでの問いは1つだけです。「そのとき、その人は何をしましたか」。
気持ちを推測しないでください。推測すると、また要約に戻ります。
手順③ 時刻・回数・手順のどれか1つを足す
動きだけでは、まだ少しぼやけます。そこに「いつ」「何回」「どの順で」のどれか1つを足すと、輪郭が出ます。
- 「申込ページを見た」 → 「夜中に申込ページを見た」(いつ)
- 「見積もりを見返した」 → 「見積もりを3回見返した」(何回)
- 「資料を集めた」 → 「資料を集めてから、上司に見せる前で止めた」(どの順で)
3つ全部を入れる必要はありません。1つで足ります。入れすぎると、今度は作り物めいてきます。
難しいことは、していません。
行動で書くと、なぜ煽らずに済むのですか
私は、煽りや誇大な表現に頼らないやり方を選んでいます。理由は、行儀の問題ではありません。
感情の言葉を強めていく書き方は、必ず煽りに近づきます。「不安」で足りなければ「このままでは手遅れです」になる。強い言葉を足すことでしか温度を上げられない構造だからです。
行動で書く方法には、その圧力がかかりません。読む人は自分の記憶を思い出しているだけなので、判断は最後まで相手の側に残ります。
マーケティングは、売る技術というより、売り手と買い手の世界の見え方を揃える行為だと考えています。行動を書くことは、その見え方を、こちらの要約ではなく相手の記憶のほうへ合わせにいく作業です。
そして、これができるようになって得をするのは、誠実な人のほうです。良い仕事をしている人ほど、強い言葉を使いたがりません。使いたくないからぼかす。ぼかすから伝わらない。誰かのために踏ん張っている人が、言葉が控えめだというだけで選ばれないのは、もったいないことだと思っています。
ただし、知らない行動は書けません
行動の一文は型です。そして、この型には元手が要ります。お客様が実際に何をしたのかを知らなければ、動きは書けません。
知らないまま形だけ真似すると、それらしい嘘になります。それは、感情の言葉でぼかしておくより悪い結果を招きます。食い違いは、あとで必ず表に出るからです。
素材は、問い合わせ文の書き出し、申込フォームの自由記述、面談で出た一言。そういう場所にしかありません。取りに行くしかないところです。
型は使うものであって、型に使われないようにしたいと思っています。あなたにしか書けない部分は、この型の中には入っていません。あなたが実際に聞いた言葉のほうにあります。
保存版:行動の一文の確認リスト
- 原稿の中の感情の言葉(不安・悩み・もやもや・焦り・疲れ)に印をつけたか
- 印がついた場所を、お客様の動きに書き換えたか
- 書き換えた一文に、時刻・回数・手順のどれか1つを足したか
- 足した要素は1つに留めたか(2つ以上入れて作り物めいていないか)
- 書いた動きは、実際に見聞きしたものか(想像で埋めていないか)
- 書き換えたあとの一文に、感情の言葉が残っていないか読み返したか
- 冒頭の一文が、読む人が自分の場面を思い出せる形になっているか
この確認をすると、原稿の直す場所が変わります。多くの場合、言葉を足す作業ではなく、まとめてしまった一文を開いていく作業になります。
メールマガジンでは、こうした「伝わる一文の作り方」を、実際の場面に沿ってお届けしています。毎号、答えではなく問いを手渡すつもりで書いていますので、よろしければ下のご案内からお受け取りください。
最後にひとつ、持ち帰っていただければと思います。あなたがいちばん伝えたい一文は、感情の言葉を抜いても立っているでしょうか。
よくある質問
感情の言葉は使ってはいけないのですか
使ってはいけないわけではありません。ただし、感情の言葉は書き手がすでに要約したあとの言葉なので、読む人が自分の場面を思い出す手がかりにはなりません。冒頭やタイトルなど、読む人に「これは自分のことだ」と気づいてほしい場所では、行動の一文に置き換えてください。逆に、こちらの姿勢を伝える締めの部分などでは、感情の言葉が自然に働くこともあります。
お客様が何をしたか分からないときは、どうやって行動の一文を書けばいいですか
想像で埋めないでください。行動の一文には元手が要ります。素材は、問い合わせ文の書き出し、申込フォームの自由記述、面談で出た一言といった場所にあります。素材が集まるまでは、感情の言葉のままにしておくほうが安全です。知らないまま書いた動きは、それらしい嘘になり、あとで必ず食い違いが表に出ます。
行動の一文に、数字はどれくらい入れればいいですか
どれか1つで足ります。時刻・回数・手順のうち1つを足すだけで、文の輪郭は出ます。2つ以上入れると、細かさが増えるかわりに作り物めいてきて、読む人の側が身構えます。迷ったときは、いちばん相手が覚えていそうなものを1つ選んでください。
